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仙台高等裁判所 昭和30年(ネ)311号 判決 1957年2月12日

控訴人 丹野栄造

被控訴人 赤間みじい

主文

本件控訴(ただし原判決主文第五項に関する部分を除く。)を棄却する。

原判決主文第五項を「控訴人は被控訴人のため宮城県知事に対し原判決添付別紙目録(一)第一、二記載の各農地につき農地法第三条による所有権移転の許可申請手続をせよ。もし右知事の許可が得られないときは控訴人は被控訴人に対し金四六〇、六〇〇円とこれに対するこの判決確定の日の翌日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え」と変更する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を(後記訂正の部分も含めて)棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求め、請求の趣旨中財産分与請求の点を、「控訴人は被控訴人のため宮城県知事に対し原判決添付別紙目録(一)第一、二記載の各農地につき農地法第三条による所有権移転の許可申請手続をし、かつその許可を条件として被控訴人に対し右各農地の所有権を移転し、その引渡および所有権移転登記手続をせよ、もし右知事の許可が得られないときは、控訴人は被控訴人に対し金四六〇、六〇〇円とこれに対するこの判決確定の日の翌日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え」と訂正した。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、援用、認否は、被控訴人が当審での被控訴本人尋問の結果を援用し、乙第二ないし四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の成立を認め、同第五、六各号証を援用し、控訴人が右各乙号証を提出し、原審および当審証人遠藤信吉、当審証人三浦覚三郎、佐藤キヨ、阿部勇、今泉すかの、丹野えなよ、丹野春男、斎藤稔の各証言、原審および当審の控訴本人尋問の結果を援用したほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

当裁判所も原審と事実の確定および法律判断を同じくするから原判決理由を引用する。(控訴人が、当審で新しく提出した全立証によつても右認定を覆すに足らない。)

控訴人は当審で請求の趣旨を前記のように訂正したが、そのうち知事に対する許可申請手続の意思表示を相手方に求める部分は、請求原因事実が前記のとおり認められる以上、正当として認容すべきであるけれども、農地所有権移転の許否は行政官庁である知事の権限に属することであるから、許否未定の間に裁判所が右許可を条件として控訴人に対し本件農地の引渡および移転登記手続を命ずるのは三権分立の建前から妥当を欠くうらみがあり、かついまただちに右給付を命ずる必要があるものとも考えられないから、控訴人の右給付を求める部分はこれを認容することはできない。しかし、夫婦の一方が提起した離婚の訴において、原告または被告が財産分与の申立をしたときは、裁判所は、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考えて、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めるべきであるから、当事者は、ただ単に分与の申立をするだけで足りるのであつて、特に分与の額及び方法を明示する必要はなく、たとえこれを明示して右申立をしても、それは裁判所に一の資料を提供したに過ぎないのであり、裁判所は、なんらこれに拘束されるものではなく、右明示以上であろうと、またそれ以下であろうと、みずから正当と判断するところにしたがつて裁判をすべきものであるから、右明示した額及び方法が裁判所の判断した額及び方法を超えても、その超える部分について請求棄却の判決をすべきではない。被控訴人の前記給付を求める旨の申立は正当ではないが、以上の見解にしたがい、この部分について請求棄却の判決をしない。ただ原判決が財産分与の方法として控訴人に対し右給付を命じた部分は相当でないから、原判決中のこの部分を削除するが、それは被控訴人の請求の一部を棄却したこととはならない。

したがつて、被控訴人の請求は原判決認容の限度(前記削除部分を除く。)で正当であり、その余は失当であるからこれを棄却すべきものとし、民訴法三八六条、九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 沼尻芳孝 羽染徳次)

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